「図面どおりにつくったのに、現場で家具が入らない」
家具工事でいちばん避けたいトラブルです。原因をたどると、多くの場合は家具の寸法そのものではなく、壁と家具のあいだの「逃げ寸法」と、それを隠す「フィラー」の決め方に行き着きます。
この記事では、家具図面を描くときに逃げ寸法とフィラーをどう決め、図面にどう描いておくかを、実務の目線でまとめます。家具図面の全体像(描く内容・図の種類・依頼時の資料)は、家具図面の作成(製作図・施工図)のページで詳しく解説しています。
逃げ寸法とフィラーとは
逃げ寸法(クリアランス)は、家具を壁や天井のあいだに納めるときに、あえて空けておく隙間のことです。建物の壁は、図面上はまっすぐでも、実際には数ミリ単位で傾いていたり、波打っていたりします。家具を空間の寸法ぴったりにつくると、少しの誤差で入らなくなります。
フィラーは、その隙間をふさぐための細い板です。家具本体は小さめにつくって据え付け、最後に現場でフィラーを壁の形に合わせて削り、隙間を見えなくします。
逃げ寸法はどれくらい取るか
決まった規格があるわけではなく、壁の仕上げ・工事の段階・家具の大きさで変わります。私達が図面を描くときの考え方は次のとおりです。
| 条件 | 考え方 |
|---|---|
| 新築で、壁の仕上げ前に採寸する | 仕上げ材の厚みと施工誤差を見込み、フィラーで調整できる幅を広めに取る |
| 仕上げ後に実測できる | 実測寸法から数ミリの逃げを取り、フィラーは細めでよい |
| 壁から壁まで(両側が壁) | 片側だけで吸収するか、両側に振り分けるかを先に決める |
| 天井まで届く背の高い家具 | 高さ方向にも逃げが必要。天井の下がりや梁も確認する |
| 搬入時に家具を起こして立てる | 対角線の長さが天井高さに収まるかを確認する |
特に見落としやすいのが最後の項目です。背の高い家具は横に寝かせて運び込み、現場で起こして立てます。家具の高さが天井より低くても、起こす途中の対角線の長さが天井を超えると立てられません。家具図面では、高さ方向の逃げもあわせて確認しておきます。
フィラーはどこに、どの幅で入れるか
フィラーの位置と幅は、見た目と使い勝手の両方で決めます。
- 壁との取合い:いちばん基本の位置。壁の傾きを削って合わせる「削りしろ」を見込んで幅を決める
- 扉の吊元(丁番側)が壁に近いとき:扉を開くと扉の厚みや取手が壁に当たるため、フィラーで扉を壁から離す
- 巾木・廻り縁・窓枠との取合い:出っ張りをかわすため、その厚み以上のフィラーが要る
- 家具どうしの継ぎ目:分割して搬入する家具では、継ぎ目にフィラーを入れて誤差を吸収することもある
2つ目の「扉と壁」は、図面では気づきにくい失敗です。スライド丁番の扉は、開くときに扉の角が吊元側へ少し回り込みます。壁ぎりぎりに扉があると、90度も開かずに当たってしまいます。金物の開き角度と扉の厚み、取手の出っ張りを確かめて、フィラーの幅を決めます。

上は、私達が作成した洗面カウンターの家具図面の例です(一部を伏せています)。平面図の端にフィラーの幅、その内側に有効寸法を描き、材料欄にはフィラーの材料と仕上げも書いています。フィラーは本体と同じ材料で色をそろえるのが基本ですが、図面に書いていないと、現場で別の材料があてられてしまうこともあります。
図面に描いておくこと
逃げ寸法とフィラーは、決めただけでは伝わりません。家具図面には次の情報を載せておきます。
- 空間の寸法(壁から壁)と、それがどの時点の寸法か(設計寸法か、実測寸法か)
- 家具本体の寸法と、フィラーの幅・位置
- フィラーの材料・仕上げ・色番と、現場で削って合わせるかどうか
- 扉の開き勝手と、壁・建具・隣の家具との干渉がないことの確認
- 壁との隙間をシール(コーキング)で仕上げるかどうか
扉が建具と近い場合は、建具の開き方向や枠の見付けも関係します。家具と建具を一緒に検討したいときは、木製建具図面とあわせて描くと食い違いを防げます。
私達の現場でも起きた失敗と、確認のコツ
私達の現場でも、壁の仕上げ前の設計寸法だけで家具図面を描き、あとで仕上げ材の厚みの分だけ空間が狭くなって、フィラーの幅がほとんど残らなかったことがあります。そのときは現場でフィラーを細く削って何とか納めましたが、左右で幅がそろわず、見た目の良くない仕上がりになりました。
それ以来、作図の前に必ず次の3点を確認しています。
- その寸法は仕上げ前か、仕上げ後か(石膏ボードの上にさらにパネルやタイルが貼られないか)
- 家具と壁の取合いに、巾木や見切りが入らないか
- 現場で実測する機会があるか(あるなら、実測後に寸法を確定させる段取りを組む)
どれも、作図の前に質疑として出しておけば、費用をかけずに決められることです。
まとめ
- 家具は空間ぴったりにつくらず、逃げ寸法を取ってフィラーで隙間を埋める
- 逃げの量は、採寸の時点(仕上げ前か後か)と家具の大きさで変える。高さ方向と搬入時の対角線も確認する
- フィラーは壁との取合いだけでなく、扉の吊元・巾木・窓枠をかわすためにも入れる
- 図面にはフィラーの幅・位置・材料・仕上げと、寸法がいつのものかを書いておく
壁まわりの造作や見切りとの取合いが多い場合は、造作図面と一緒に検討するのがおすすめです。逃げ寸法やフィラーまで描き込んだ家具図面の作成は、こちらからご相談ください。
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