
「全かぶせのつもりで扉を作ったら、隣の扉とぶつかって開かない」「丁番を付けたら、扉が側板から2mmはみ出した」
扉付きの家具でよく起きる失敗ですが、原因の多くはスライド丁番の「かぶせ」の種類と、カップ穴の位置を図面で決めきっていないことにあります。スライド丁番は、キッチン・洗面台・収納家具など、扉のある家具のほとんどに使われている金物です。図面の上でどこまで決めておくかで、現場での調整の手間が大きく変わります。
この記事では、家具図面でスライド丁番を扱うときに決めておく寸法と、図面への書き方をまとめます。家具図面に描く内容の全体は家具図面の作成(製作図・施工図)のページで解説しています。
スライド丁番の「かぶせ」は3種類
スライド丁番は、扉と本体(側板)の重なり方によって3種類に分かれます。どれを使うかで、扉の大きさも、側板の見え方も変わるので、最初に決めておく項目です。
| 種類 | 扉と側板の関係 | 向いている場所・注意点 |
|---|---|---|
| 全かぶせ(アウトセット) | 扉が側板の前をほぼ全部覆う | 側板が見えないすっきりした見た目。キッチン・洗面台の扉に多い |
| 半かぶせ | 扉が側板(中仕切り)の一部だけを覆う | 扉が横に並ぶ家具の中仕切りで、左右の扉が1枚の仕切りを分け合う |
| インセット | 扉が側板の内側に納まる | 扉の面と本体の面がそろう。扉が奥へ入り込まないよう戸当りが別に要る |
同じ家具の中でも、端の扉は全かぶせ、中央の扉は半かぶせのように使い分けることがあります。図面では、扉ごとにどの種類かが分かるようにしておきます。
図面で決める3つの寸法:かぶせ量・カット量・カップ径
種類が決まったら、次の3つの寸法を決めます。
- かぶせ量:扉が側板に重なる量。全かぶせなら側板の厚みに近い値、半かぶせなら仕切りの厚みの半分ほどになる
- カット量:扉の端から、丁番のカップを入れる穴(カップ穴)の縁までの距離。カット量が変わると、同じ丁番でもかぶせ量が変わる
- カップ径:扉に掘るカップ穴の直径。家具用では35mmが広く使われ、薄い扉には26mmなどの小さいものもある
メーカーのカタログには「適応かぶせ量15〜19mm(カット量5mmの時)」のように、かぶせ量とカット量がセットで書かれています。つまり、カット量を書かずにかぶせ量だけを指定しても、扉の位置は決まりません。丁番の座金(取付けプレート)の高さを変えたり、調整ねじを回したりして数mm動かせますが、それは取付け後の微調整のための余裕と考え、図面の段階で寸法を合わせておきます。
開き角度と「隣にぶつからないか」
スライド丁番は、開き角度でも種類が分かれます。標準的なものは90〜110度前後で、扉を大きく開いて中の物を出し入れしたい家具には広角(140度以上)、壁や隣の家具が近い場所には開きを抑えたもの(85度など)を選びます。
図面で確かめておきたいのは、扉を開いたときに当たるものがないかです。
- 壁ぎわの扉:扉の厚みと取手の出で、開いた扉が壁に当たらないか。当たるなら、フィラー(すき間をふさぐ板)で家具を壁から離す
- 隣り合う扉:扉が厚いと、開くときに扉の角どうしが当たることがある。扉厚とカット量の組み合わせで、メーカーが目安(オープニングクリアランス)を出している
- 中の引出し:扉の内側に引出しがあると、扉が90度しか開かない丁番では引出しが扉に当たって出てこない

上の図は、洗面所のリネン庫の家具図面の例です。扉の正面図と断面図、平面図を並べ、扉と本体の重なり方や取付けの位置が、どの図を見ても同じ寸法で読めるようにしています。スライド丁番を使う家具では、ここに丁番の品番・かぶせの種類・カット量を書き添えておくと、製作と取付けで迷いがなくなります。
家具図面への書き方
スライド丁番について、家具図面には次のことを書いておきます。
- 品番(メーカー名・シリーズ・かぶせの種類):「スライド丁番」だけでは足りない。ダンパー(ゆっくり閉まる機能)の有無も書く
- かぶせ量とカット量:扉ごとに。全かぶせ・半かぶせが混ざる家具では特に
- 丁番の数と位置:扉の上下の端から何mmの位置に付けるか。背の高い扉・重い扉は、メーカーの目安に合わせて数を増やす
- 扉の勝手(吊元):どちら側に丁番が付くか。正面図の開き記号と平面図の開き弧をそろえる
丁番の位置は、中の棚板や引出しの高さと重ならないかも合わせて確かめます。棚板の位置に丁番が来ると、側板の座金と棚受けがぶつかります。
よくある失敗と確認のコツ
私達の現場でも、スライド丁番まわりの手戻りは何度か経験してきました。よくあるのは次のようなものです。
- 同じ家具に違うかぶせ量の丁番が混ざった:1枚の扉に違う種類の丁番が付くと、扉がねじれて閉まらない。扉ごとに品番を1つにそろえる
- カット量を書かずに扉を作った:工場の標準のカット量で穴があき、かぶせ量が図面と合わなかった
- インセットの扉に戸当りを描いていなかった:扉が奥へ入り込み、面がそろわなかった
- 壁ぎわの扉が全開しない:平面図で開いた扉を描いていなかったため、壁と取手の干渉に気づかなかった
確認のコツは、平面図に「開いた扉」を1枚ずつ描いてみることです。開いた扉が壁・隣の扉・引出し・設備(水栓や照明のスイッチ)に当たらないかが、一目で分かります。扉の向きは建具と同じく「どこから見た右か」で食い違いやすいので、扉の多い家具では建具図面の勝手の表し方もあわせて確認しておくと安心です。
まとめ
- スライド丁番のかぶせは全かぶせ・半かぶせ・インセットの3種類。扉ごとにどれを使うか決める
- 図面で決めるのはかぶせ量・カット量・カップ径。かぶせ量はカット量とセットで指定する
- 開き角度を選び、開いた扉が壁・隣の扉・引出しに当たらないかを平面図で確かめる
- 図面には品番・かぶせ量とカット量・丁番の数と位置・勝手を書く
家具まわりの壁や天井の納まりは造作図面のページもあわせてご覧ください。金物まで決めきった家具図面の作成は、こちらからご相談ください。
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